「お兄さん、止まってくださ〜い。」
赤いパトランプを点けた車が、黄色い歩道橋の下に隠れていた。顔が青ざめた。
「急いでましたかね?ちょっとスピード出し過ぎですね〜。」
「はい、自覚はありました。」
ここで、色々と口実を並べる人もいるらしい。僕は白々しく嘘をつくこともなく、速度超過を認めた。30キロオーバー。グレーゾーンでもなんでもなく、一発で免停処分になった。
裏で黒い交際をしてそうな、真っ赤な高級車に乗ったおじさんも直後に捕まっていた。おじさんは地面の緑をじっと見たまま、うなだれていた。
赤切符、青切符。どっちも違反だけど、重いのは赤いほう。僕は赤い切符を切られた。
紺色の制服を着た警官の顔がボヤけて見えるくらいに、頭が真っ白になった。
指先が紫になるくらい、こぶしを握り締めて後悔した。
初回の免停者は30日の免許停止となる。一日、任意で短縮講習を受けると、29日間短縮される。もちろん、短縮講習を受けることにした。1万円以上かかった。
茶色い財布から、泣く泣く出ていく1万円札の肖像に、説教をされているような気分になった。
処分はこれだけでは終わらない。簡易裁判で罰金を受ける必要がある。厳重に赤い判子が押された、重々しい雰囲気の茶封筒が家に届いた。
「〇月〇日、裁判所へ出頭してください。」
簡易裁判といえども、裁判は裁判。本当に気が重かった。
後日、簡易裁判所へ出向いた。灰色のスウェットに金髪の女。ネイビーのスーツにピンクのネクタイをしめた男。色んな人間が、簡易裁判がはじまるのを待っていた。
自分の名前が呼ばれるのを待つ。朝いちばんに行ったけど、10番目くらいに呼ばれた。免停者の朝は早い。
事実確認をされた。
「間違いありませんね?」
「はい。」
本当に、これくらいの短いやりとりだった。
確認が済むと、印鑑を押す。ここで、実印を忘れていることに気づく。
「あ、実印なくても大丈夫です。指でもいいですよ。」
自分の指紋で判を押した。肌色の親指が黒くなって、犯罪に手を染めるとはこういうことか、と落胆した。違反歴が真っ白だった免許証に、ビシッと前歴がついた。
罰金は6万円だった。
財布から出ていく福沢諭吉6人に愛想をつかれたような気がした。
マジで黒歴史。
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